アフタヌーンの秘薬
「私は梨香さんと聡次郎さんの味方だからね!」
「ありがとうございます」
麻衣さんと別れ、店に入って開店準備を始めても栄愛華さんという人のことを考えてしまい作業が進まない。
奥様が選んだだけあって龍峯にも利益のあるお相手だ。低所得で学も教養もない私とは大違いの。
どうして今愛華さんが来るのだろう。もしかして奥様が私と聡次郎さんの関係を壊す目的で本当の婚約者を呼んだのだろうか。
龍峯のビル内には複数の生花装飾があり、古明橋の花屋さんにお願いして毎週活けてもらっているということだった。その契約を切ってまで愛華さんにお願いするということは、愛華さんはかなりの時間龍峯にいることになる。
もし聡次郎さんと愛華さんが会ったら……。
不安は増すばかりだ。
◇◇◇◇◇
もうすぐ会社に着くという聡次郎さんからのメッセージを確認しながら1階でエレベーターを待っていた。
聡次郎さんの部屋の鍵をカバンから取り出そうとして開いた扉から駐車場を見ると、聡次郎さんの車が入ってくるのが見えた。
駆け寄ろうとすると、駐車場の端にブルーシートが敷かれているのが目に入った。シートの上には複数の大きな花瓶とバケツに入った色鮮やかな生花、そして愛華さんがいてはっと息を呑んだ。
車から出てきた聡次郎さんを確認した愛華さんは、ゆっくりと聡次郎さんに歩み寄り笑顔で話しかけた。
ここからでは離れた2人の会話は聞こえない。けれど2人の笑顔ははっきり見ることができた。以前からの顔見知りであることがわかる。