アフタヌーンの秘薬

奥様が勝手に決めたとはいえ、2人がお互いをどう思っているのかまでは私は知らない。
聡次郎さんは愛華さんと結婚するつもりはないとはっきり言った。今も笑顔ではあるけれど作ったような不自然な顔だ。
でも愛華さんが聡次郎さんを見る顔は知り合いに見せる顔ではなかった。聡次郎さんに会えて嬉しくて仕方がない、そんな気持ちが表れている。
これまでの聡次郎さんの言動は愛華さんを拒否していた。でも愛華さんはそう思ってはいなのだと今思い知った。

聡次郎さんが会話を切り上げてビルに近づいてきたから、私は開いたばかりのエレベーターに慌てて乗った。聡次郎さんに笑顔を見せる愛華さんが堪らなく嫌で、エレベーターの『閉』ボタンを何度も押した。

部屋に入って作り置きしてあったおかずを電子レンジで温めた。お湯を沸かしてお茶の準備をすると聡次郎さんが部屋に入ってくる気配がした。だから私は玄関まで移動するのに小走りになってしまった。

「どうした?」

その勢いに驚いたのか聡次郎さんは靴を脱ぐため足を上げたまま止まった。私は聡次郎さんに抱きついた。

「梨香?」

よろけても決して私を引き離そうとはしない聡次郎さんの肩に私は強く顔を押しつけた。嫉妬で不機嫌な顔を見られないように。

「どうかした? 何かあった?」

聡次郎さんは心配そうな声を出し私の顔を見ようと少しだけ体を離そうとしたけれど、離れたくないと強く思った私はますます肩に顔を押しつける。

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