アフタヌーンの秘薬

私の様子に聡次郎さんは諦めたのか手を腰に回し私を抱き締めた。それ以上何も言わず、私が自分から離れるのをひたすら待っていてくれる。そんな聡次郎さんの優しさが嬉しくて愛しくて、今こうして私のそばにいてくれることが幸せだ。

「もう大丈夫」

私は聡次郎さんを見上げた。

「ごめんなさい。もう大丈夫だから」

「本当か? 俺にできることなら何でも言えよ」

「こうして抱き締めてくれたらそれでいいの」

聡次郎さんから離れ笑顔を見せた。無理に笑っているわけではないけれど、聡次郎さんは納得したようには見えない。私は聡次郎さんの手を取ってリビングへと引っ張った。

「ご飯食べよ」

「ああ……」

本当の婚約者が現れても、聡次郎さん自身が私のそばにいることを望んでくれたのだから大丈夫。不安に思わなくていい。私はそう自分に言い聞かせた。










「おはよう」

髪を乱した聡次郎さんがゆっくりと寝室からリビングに来た。

「おはよう。朝ご飯はパンケーキでいいかな?」

「うん。うまそうな匂い」

聡次郎さんはお皿に盛りつける私の横に立った。

「なにこれ……」

私の持つ器に入った濃い緑の液体を不審な顔で見た。

「抹茶ソースです」

龍峯の抹茶と砂糖を混ぜパンケーキにかけるソースを試作していた。

「これは?」

「パンケーキに添える抹茶アイス」

同じく龍峯の抹茶でアイスを作った。パンケーキの横に添え、手作りソースをかける。最後に抹茶をふるって飾りつける。

「はい完成! どうぞ」

聡次郎さんにパンケーキのお皿を手渡した。

< 166 / 216 >

この作品をシェア

pagetop