アフタヌーンの秘薬
聡次郎さんの部屋を出てエレベーターに乗った。
社内では婚約していることをオープンにしてしまったから、今はもう聡次郎さんの部屋から隠れずに堂々と出てこれる。龍峯での勤務が休みの日でも私がここにいて不自然じゃない。
1階のエレベーターホールに下りると、駐車場に繋がる裏口の扉が不自然に開いたり閉まったりしている。
不審に思いしばらく様子を見ていると、開いた扉から台車が入ってきた。台車の上には高さのある壷に活けられた見事なアレンジメントが載っている。
ゆっくりとエレベーターホールに入ってきた台車を押しているのは愛華さんだった。
「あっ!」
愛華さんが声を出した。わずかな段差で揺れた台車の上の壷が倒れそうになり、愛華さんは慌てて片手で壷を支えた。
「大丈夫ですか?」
私は思わず駆け寄って壷を支えた。
「ありがとうございます」
愛華さんは私でもうっとりするような可憐な笑顔を向けた。
「どこまで運ぶんですか?」
「ドアの前までです」
龍峯のビルのガラス扉の前には以前花屋に頼んでいたアレンジメントが置いてあった。これは代わりにそこに置くのだろう。
「手伝います」
「でも……」
「割れたら大変ですから」
「ありがとうございます」
愛華さんが台車を押して、私が壷を支えてガラス扉の手前まで運んだ。
「せーので置きますよ」
「はい」
「せーのっ!」
愛華さんと一緒に壷を持ち、ガラス扉の前に置いた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
愛華さんは私に何度も頭を下げた。