アフタヌーンの秘薬

「わかるよ、梨香のこと。何を不安に思ってるのかも」

その言葉にどきりとした。

「不安だなんて……」

誤魔化そうとしても聡次郎さんには通じない。私を見つめたまま答えを待っている。

「あのね……」

本当は不安だよって言いかけて口をつぐんだ。
愛華さんの存在が怖いだなんて言いたくない。奥様が無理やり聡次郎さんに近づけようとしていることが嫌だなんて、聡次郎さんが愛華さんに心動いてしまうんじゃないかと焦っているなんて、そんな醜い嫉妬をしている自分を知られたくない。

「そ、そういえば綺麗だよねお花!」

自分でも思いの外大きな声が出た。視線を上げると聡次郎さんと目が合い焦った。1度口に出した話題を取り下げることはできない。

「フロアとかビルの前とか……お花……」

「そうだな」

「…………」

「栄の人間がいくら龍峯を出入りしようと、俺と梨香にはなんの問題もない」

聡次郎さんの言葉にはっとした。愛華さんの話を聡次郎さんの口から聞くのは初めてだ。

「愛華さんなら龍峯に利益があるよ? それでも?」

私が聡次郎さんのそばにいてもいいの?

「まあ、龍峯にとって銀栄屋の人間は文句ない相手だな。愛華さんはフラワーアレンジメントのコンペでいくつか賞を獲ったこともある」

「そうなんだ……」

素人の私でも素晴らしい作品だとわかる。名のあるコンペの受賞歴があるなんて、しかもあの美貌と家柄。文句などあるものか。愛華さんに何もかも負けている気がして、聡次郎さんから聞く愛華さんという人物には欠点がないように感じた。

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