アフタヌーンの秘薬
「嫉妬する梨香も可愛い」
そんな言葉を言うものだから、私は聡次郎さんの胸を軽く叩いた。
「俺が好きになったのは梨香だよ」
聡次郎さんは私の額に再びキスをした。その唇は肌を滑らせるように下がっていき、頬に触れるとゆっくり唇へと移動する。そうして何度もお互いの唇を重ねた。
僅かに唇が離れると聡次郎さんは「愛してるよ」と囁いた。
「私も愛しています……」
大丈夫、聡次郎さんの気持ちは私にある。
◇◇◇◇◇
龍峯のビル内の掃除は数か月に一度清掃業者が入る。それ以外の普段の掃除は社員とアルバイトが当番制でしている。今日は私が15階から地下までの階段のモップがけの当番だった。
応接室や社長室のある15階までモップを持って上がったとき、廊下に活けられたアレンジメントの存在の大きさに嫌でも気がついた。
ひし形のグレーの花器に三ツ又の枝が挿され、ラメが入ったリボンと金色の太い針金で装飾されている。
エレベーターを降りるとすぐに目に入るアレンジメントは来客のある15階にふさわしい作品だ。
会議室からは何人かの話し声が聞こえた。確か営業会議があるとホワイトボードに書いてあったっけ。そして応接室からも奥様の声が聞こえた。誰か来客のようだ。
議論が交わされている会議室と違って応接室は奥様の陽気な声が際立つ。経営に直接関わらなくなったとはいえ、会議の最中に横の部屋で談笑とは会社のことを思っているのか呑気なのかわからない。