アフタヌーンの秘薬
奥様は必死だ。それほどに銀栄屋が重要なのだろう。
2人は開いたエレベーターに乗っていってしまった。ドアが閉まるまで奥様は愛華さんに謝罪していた。
私はやっと身動きがとれるようになり階段に座り込んだ。
聡次郎さんが私を大事にしてくれていることに安心した。それ以上に奥様の本気が垣間見えて恐ろしかった。
お昼休憩は聡次郎さんが来る前に仕込んでおいた野菜を炒めて、ソースと共に茹でたパスタに絡めた。聡次郎さんが部屋に入ってきたときにはお皿にパスタを盛り、お茶の準備もできていた。
「会議だったんですね」
ソファーに座る聡次郎さんに動揺を見せないように平常心を保って聞いた。私とのお昼の時間を大事にしてくれているのに暗い顔はできない。
「ああ、春に新店舗を出すんだ。その会議だよ」
「新店舗か……すごい……」
新店舗と聞いて喜びよりも不安が増してしまった。
もしも聡次郎さんが愛華さんと結婚したら龍峯の店舗を銀栄屋に増やしてもらえるかもしれないという話だった。今このタイミングで龍峯の店舗が増えるというのなら、愛華さんとの結婚の話を進めているのではないかと勘ぐってしまう。だからさっき奥様と愛華さんは応接室で話をしていたのではないかと。
「ん、やっぱうまいな」
「でしょ? これも今度カフェで提案する新メニュー候補なんだ」
「そっか、頑張れよ」
「うん」
聡次郎さんは笑顔で応援してくれるのに、私の気持ちは晴れない。