アフタヌーンの秘薬

「本店にはいい従業員がおりますのね」

松山様の言葉に奥様は首を傾げた。

「この方、三宅さんといったかしら。来店する度にお茶の味が美味しくなっていきますの」

今度は私が目を見開く番だった。

「若いしお茶も美味しくないし、この方が本店に勤めて大丈夫かしらと最初は思っていたのですけど、相当学ばれたのでしょうね。今いただいた玉露も大変美味しいです」

「あ、ありがとうございます……」

私の声が震えた。あまりの嬉しさに顔が赤くなり目頭が熱くなる。まさか松山様にここまで褒めてもらえる日がくるとは思わなかった。

「お褒めいただいてありがとうございます」

奥様は松山様に頭を下げた。私からは奥様の顔を見ることはできない。私を龍峯に相応しくないと言った奥様は今何を思っているのだろう。

松山様は玉露と龍清軒を買って帰られた。姿が見えなくなるまでお辞儀をしていた奥様は顔を上げると私を振り返った。

「梨香さん、お話がありますの」

「はい。今ですか?」

「今です」

奥様はそう言うと事務所に繋がる扉を閉めて奥にいる花山さんに会話が聞こえないようにした。

「お座りになって」

お店の真ん中のテーブルに座った奥様は私を向かいに座るように促した。

「失礼します」

営業中の今いつお客様が入ってくるかわからないお店の中で話とは一体なんだろうか。

「梨香さん、これを受け取ってください」

奥様は手に持った風呂敷を広げると中から封筒が出てきた。
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