アフタヌーンの秘薬
厚みのある封筒をテーブルに置かれた瞬間、あまりのショックに言葉を失った。封をされていない封筒の中身は手に取らなくても見えてしまう。この中には札束が入っている。
「奥様?」
「差し上げますので受け取ってください」
「え!?」
「その代わり、二度と聡次郎に近づかないと約束してください」
怒りで手が震えてきた。
聡次郎さんが以前奥様にお金を使って無理矢理恋人と別れさせられたと言っていた。今私が置かれている状況と同じだ。目の前の老齢の女性はお金をもらう代わりに聡次郎さんと別れろと言っている。
「いりません」
私ははっきり答えた。
「お金なんて結構です。生活に困っていないので」
「いいえ。これは今まで龍峯に尽くしてくれたお礼です」
「ならば尚更受け取れません。お世話になっているのは私の方です」
「それも今日限りですから」
「お給料は規定通り振り込んでくだされば結構です」
表情を一切変えない奥様に負けないよう私も平静を装った。
「本店に勤めていただくのも今この瞬間を最後で結構です」
震える手を誤魔化すことはもうできなかった。
「今すぐ帰れ……ということですか?」
「お受け取りください」
奥様はわざとらしい笑顔で私の前に封筒を押し出した。
「受け取れません!」
どうしても大きい声が出てしまう。奥様の前では感情的になった方が負けなのに。
「これからのこと、いろいろと準備もあるでしょう。今すぐお帰りください」