アフタヌーンの秘薬

「申し訳ありません。今更私がここに現れて……」

愛華さんまで下を向くから私まで思わず「すみません」と謝ってしまった。

「あの、愛華さんは出勤ですか?」

花山さんはもう龍峯に来ないと言っていたけれど、やっぱりここで働きたいのだろうか。

「いえ、制服を返しに来ました」

確かに愛華さんは紙袋を持っている。やはり辞めてしまうのだ。私のせいだという気がして言葉が出ない。

「三宅さん、ありがとうございました」

「私は何も……」

「どうかお幸せに」

その言葉が嫌みでもなく本心からの言葉だと思えたから、私は真っ直ぐに愛華さんの目を見て「ありがとうございます」と言えた。

「これから私、自分で働いてみることにしました」

「それは、ここではないところでですか?」

「はい。コンペで知り合った方のご紹介でフラワーアレンジメントを納品させていただくことになりました。長期的なご契約を頂けたので、やってみようと思います」

愛華さんはとても嬉しそうだ。

「頑張ってください」

「ありがとうございます。では、会社に制服を返してきます。失礼いたします」

私も頭を下げた。
愛華さんの表情は晴々としている。円満に婚約を解消したと聡次郎さんは言っていた。今も私を恨むようなことは一言もなかった。本当に素敵な女性だった。愛華さんがビルの中に入って見えなくなっても、私はもう一度頭を下げた。






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