アフタヌーンの秘薬



結婚の報告をしようと龍峯家の皆さんに夜8時に時間をとってもらった。
龍峯の社員が全員帰ったことを確認すると応接室に奥様と慶一郎さんと麻衣さん、月島さんと聡次郎さんと私が集まった。
今日の麻衣さんはつわりの症状が軽いのかいつもより顔色がいい。
ソファーに座る慶一郎さんと麻衣さんはついにこのときが来たのかとニコニコしているけれど、私は心を落ち着かせるためにじっと立っていたし、座った奥様は仏頂面だ。

「それで、式はいつにするか決めたのか?」

慶一郎さんの言葉に、なんと切り出そうか迷っていた聡次郎さんと私は余計に困ってしまう。

「春にはやろうかと思ってる」

聡次郎さんの言葉に私もうなずいた。

「和装? 洋装? 海外もいいわよね」

麻衣さんが盛り上がったけれど、眉間にしわが寄る奥様の顔を見て黙ってしまった。

「母さん、俺と梨香は結婚する。どんなに邪魔されようとこの決意は変わらない」

聡次郎さんの言葉が聞こえたはずなのに奥様は顔色一つ変えない。

「許してくれなくてもいい。俺は梨香とこの先の人生を一緒に歩んでいくと決めた」

聡次郎さんの力強い言葉に私は未来が幸せに満ち溢れると確信を持っている。

今朝奥様にお金を渡されそうになったことを聡次郎さんには言っていない。私は受け取らなかったのだから言っても意味がない。業務の途中で追い出されたのも黙っていた。龍峯を急に追い出されても聡次郎さんのそばにいられるなら仕事はなんだっていい。まだ私にはカフェの仕事がある。

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