アフタヌーンの秘薬

「結婚したとして、あなたたちはこのビルにずっと住むつもりなの?」

黙っていた奥様はついに口を開いた。

「まだ決めていない。でも梨香が居心地が悪いと感じるなら違う部屋を探すつもりでいる」

それは言外に生活に干渉するなと奥様に言っているかのようにとれた。

「本気なのね聡次郎は」

「本気だよ」

聡次郎さんと奥様は睨み合った。その様子を慶一郎さんと月島さんは無表情で見守り、麻衣さんと私は不安な顔で2人を交互に見た。

「梨香さんに本店に関わらないでほしいとお願いしたのに、聡次郎はこの先ずっと梨香さんにいてもらうつもり?」

「そんなことを言ったのか!?」

聡次郎さんは驚いて私の顔を見た。他の3人も私を見ている。奥様の方からその話を切り出したから、私は正直にそう言われたのは間違いないと答えた。

「聡次郎さんと結婚できるなら、もう仕事にはこだわりません。本当は龍峯の仕事が好きなので働いていたいですが」

この言葉に奥様はじっと私を見つめた。

「母さんは梨香のお茶を飲んだことがないから、梨香を手放すバカな選択しかできないんだ」

「聡次郎、言いすぎだ」

月島さんが聡次郎さんを嗜めた。

「母さんにバカと言うな」

慶一郎さんも聡次郎さんの子供のような発言に呆れた。2人から責められても聡次郎さんの怒りは治まらない。

「梨香は初めてここに来た頃クソ不味いお茶しか淹れられなかったのに、社員にも負けないくらい勉強して今では龍峯のどのお茶も上手く淹れるんだ」

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