アフタヌーンの秘薬
初めて聡次郎さんがお茶を褒めてくれて驚いた。いつも私が淹れたお茶を「まあまあ」としか言ってくれないのに。
「それはバイトにしとくのはもったいない、龍峯に必要な人材だな」
慶一郎さんもそう言ってくれて涙が出そうだ。仕事を評価されることはとても嬉しい。
「まったく……」
奥様は溜め息をついた。
「うまく取り入ったようね」
この言葉に聡次郎さんは更に怒りを募らせたけれど、私は聡次郎さんの手を軽く握り「大丈夫」と囁いた。こんなにも認めてもらえて、嬉しくて今なら奥様のどんな嫌みも受け流せる。
「龍峯で働かせていただいた半年は、楽しくてとてもいい経験でした。ありがとうございました」
奥様に頭を下げた。心からの感謝を向ける。奥様が意地悪するつもりで龍峯で働くように言ったとしても、私はお茶を学べたことに感謝している。
「あなたは聡次郎にそっくりで、負けず嫌いで自分勝手ね」
奥様は表情を変えず静かに言葉を発した。
「他の従業員からあなたの評価は聞いています。聡次郎とお付き合いしていると知られてからも、その評判は落ちることはないようです」
淡々と語る奥様から目が離せない。
社員さんから評価されていることは光栄だ。けれど私に出ていけと言った口から聞く内容ではない。
「認めなければいけないようですね」
「どういうこと?」
穏やかな口調になった奥様に聡次郎さんは不思議そうに問いかけた。