アフタヌーンの秘薬
「どうして急に……」
聡次郎さんまでも驚いている。
「急ではありませんよ。少し前から認めようと思っていました」
奥様は微笑んだ。私に向けた初めての笑顔だ。
「梨香さんにお金を渡そうとしたのは、お金で聡次郎を裏切る人なのかどうか見極めるためです。意地悪なことをしてごめんなさいね」
今までの態度からは信じられないほど優しい口調に戸惑う。
「自分で結婚相手を決めるというのなら構わない。でもその人がお金を受けとるような人であれば聡次郎に相応しくありません」
「勝手なことをして……」
聡次郎さんの声は呆れている。
「親心です」
奥様は反省する様子が全くない。あれほど嫌な態度をとっておきながら、あっさりと認めてくれて拍子抜けしてしまう。
「でも私に出ていけとおしゃいました……」
「本店は、という意味です」
「それはどういう……?」
「お茶カフェに梨香さんを抜擢するのでしょう? ならばもう本店に勤務することはできないですから」
奥様の言葉が理解できない。お茶カフェとは一体なんのことだ。
「まだそれは梨香には言ってないんだよ。なのに出ていけなんて言ったら余計話がややこしくなるだろ」
聡次郎さんは更に呆れている。
「結婚すると決めたのならとっくに話していると思うでしょう」
「2人とも、梨香さんが混乱しているよ」
慶一郎さんが困惑する私に微笑んだ。
「来年龍峯がお茶をメインにしたカフェをオープンすることになったんだよ」