アフタヌーンの秘薬
「そうなんですか?」
それは初耳だ。そういえば営業部が何やら慌ただしいし、聡次郎さん自身が新店舗を出すと言っていたことを思い出した。
「そのカフェのスタッフの1人として、梨香さんに営業に携わってもらいたい」
「え!?」
「営業部と協力してカフェメニューをお茶に合うようにアレンジしたり、龍峯の商品を使ったメニューを考案してほしい」
思ってもいない事態だった。
「あの……」
困って回りを見渡した。慶一郎さんも麻衣さんも私を見て微笑み、聡次郎さんは態度が変わった奥様をまだ不審な目で見ている。
「あとはあなたたちで話し合いなさい」
奥様は立ち上がった。
「私はこれで失礼します」
応接室を出ようとする奥様に私は「あの!」と引き留めた。
「認めていただきありがとうございます!」
奥様に向かって深く頭を下げた。それを見た聡次郎さんも私の横に並び、同じく奥様に向かって頭を下げたのだ。
「……海外挙式だけはだめですよ。お世話になった方をお招きして盛大にするのですから、国内でおやりなさい」
「考えとくよ」
「梨香さん」
「はい」
「明日私に龍清軒を淹れてくださいね」
その言葉に涙が溢れて視界が霞んだ。
「はい! 喜んで!」
奥様は最後にもう1度微笑むと応接室を出ていった。
「おめでとう2人とも!」
麻衣さんが拍手をした。
「奥様を認めさせるなんてすごい!」
「ありがとうございます……」