アフタヌーンの秘薬
聡次郎さんと結婚できる。まだ実感が湧かない。横に立つ聡次郎さんを見ると喜んでいるわけでもなく、まだ奥様の態度の変化についていけていないようだ。
「聡次郎」
月島さんが聡次郎さんを呼んだ。
「よかったな」
そう言って月島さんは微笑んだ。ずっと聡次郎さんをそばで見てきた月島さんは聡次郎さんの過去を全て知っているからこそ家族と同じように喜んでくれている。
「……帰る」
そう言った聡次郎さんに私は突然手を引かれた。
「お疲れさま」
手を振る麻衣さんに手を振り返し、「お疲れさまです」と言って聡次郎さんに引っ張られながら応接室を出た。
エレベーターに乗り聡次郎さんの部屋に着くと無言でリビングまで引っ張られた。
「聡次郎さん?」
心配して声をかけた途端、聡次郎さんに抱き締められた。
「あの……」
私の肩にグリグリと頭を押し付ける聡次郎さんが愛しくて、私は聡次郎さんを抱き締め返した。
「お茶カフェの話、言ってくれたらよかったのに」
「そのうち言おうと思ってたんだよ。お茶カフェをやるなら駅前のカフェを辞めなきゃいけない。それは嫌そうだったから言いにくくて」
確かにお茶カフェに携わるのなら、もう駅前カフェとの両立は難しくなる。
「あの、それは正社員ということですか?」
「まあそう言えなくもないな。経営陣の1人になるわけだから」
龍峯のような古い体制の会社では、親族の一員になれば経営に携わるようだ。ならば私も麻衣さんのような立ち位置になるのだろう。