猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
王の寵愛を受けていたとはいえ身分はあくまで側室だったロザリーの葬儀は、本人の希望もあり、ひっそりとしめやかに執り行われた。
この季節にいったいどこから集められたのかというほど大量の薔薇が棺に収めらる。その中でも一際美しく、ロザリーは永遠の眠りに就いていた。死に化粧を施され紅を引いた唇は、微笑んでいるようにも見え長い闘病を感じさせず、いまにも起き上がりそうで、たまらずグレースはそっと呼びかけてしまったくらいである。だが、再びその瞼を持ち上げて、菫色の瞳を見せてくれることはなかった。
入宮以来、一度も叶えられずにいた帰郷。ロザリーたっての願いにより、亡骸は故郷に埋葬される。そこで愛しい我が子と久しぶりに再会し、最期の別れをするのだろう。
白い雪道を進んでいく棺を乗せた馬そりを見送りながら、グレースも実の姉のように慕ったロザリーの安らかな眠りを祈った。
側室の一人が亡くなったからといって、王宮に目に見えて大きな変化が起きたわけではない。あれだけロザリーに執着していた国王も、淡々と公務をこなしているようにみえた。
だがそれはあくまで表面上のこと。噂好きの使用人たちの間では、物騒な話が広がっていた。
ロザリーは、嫉妬に狂った王妃に殺されたのだ。
もちろん証拠などどこにもない。面白おかしく話でもしているところを上のものに聞かれれば、ただでは済まない。それでも人の口に戸は立てられないもので、やがてグレースの耳にも入ることになった。
言われてみれば、胸の発作で亡くなったと聞いた彼女の死に顔は穏やかで、苦しんだ様子はない。葬儀のときは、それがせめてもの救いだと思ったくらいなのだが、そのことを周囲が不審がるのも無理はなかった。
当のアイリーンが火消しに躍起になるかと思えば、それほどでもなく。これまた王城の端にまで流れてきた噂では、生家であるブランドルの当主が体調を崩していることと、跡継ぎであるエルガーがなにやら問題を起こして、そちらに気をとられ手が回らないのだという。
第一王子の母である王妃のブランドル家と、姫をもうけた国王の寵愛を受けるロザリーの後見であるヘルゼント家。これまで、王宮を二分する両家の勢力は僅かにブランドル家が優位に立ちつつ、微妙な均衡を保っていたかに思われていた。
それがロザリーの死により、天秤は大きくブランドル側に傾くだろうと誰もが予想していた最中で、この騒動である。
お互いを牽制しつつ、水面下で攻防を続けていた両家の勢力図に変化の時が訪れ始めていた。
グレースがラルドと再会したのは、そんなころであった。
この季節にいったいどこから集められたのかというほど大量の薔薇が棺に収めらる。その中でも一際美しく、ロザリーは永遠の眠りに就いていた。死に化粧を施され紅を引いた唇は、微笑んでいるようにも見え長い闘病を感じさせず、いまにも起き上がりそうで、たまらずグレースはそっと呼びかけてしまったくらいである。だが、再びその瞼を持ち上げて、菫色の瞳を見せてくれることはなかった。
入宮以来、一度も叶えられずにいた帰郷。ロザリーたっての願いにより、亡骸は故郷に埋葬される。そこで愛しい我が子と久しぶりに再会し、最期の別れをするのだろう。
白い雪道を進んでいく棺を乗せた馬そりを見送りながら、グレースも実の姉のように慕ったロザリーの安らかな眠りを祈った。
側室の一人が亡くなったからといって、王宮に目に見えて大きな変化が起きたわけではない。あれだけロザリーに執着していた国王も、淡々と公務をこなしているようにみえた。
だがそれはあくまで表面上のこと。噂好きの使用人たちの間では、物騒な話が広がっていた。
ロザリーは、嫉妬に狂った王妃に殺されたのだ。
もちろん証拠などどこにもない。面白おかしく話でもしているところを上のものに聞かれれば、ただでは済まない。それでも人の口に戸は立てられないもので、やがてグレースの耳にも入ることになった。
言われてみれば、胸の発作で亡くなったと聞いた彼女の死に顔は穏やかで、苦しんだ様子はない。葬儀のときは、それがせめてもの救いだと思ったくらいなのだが、そのことを周囲が不審がるのも無理はなかった。
当のアイリーンが火消しに躍起になるかと思えば、それほどでもなく。これまた王城の端にまで流れてきた噂では、生家であるブランドルの当主が体調を崩していることと、跡継ぎであるエルガーがなにやら問題を起こして、そちらに気をとられ手が回らないのだという。
第一王子の母である王妃のブランドル家と、姫をもうけた国王の寵愛を受けるロザリーの後見であるヘルゼント家。これまで、王宮を二分する両家の勢力は僅かにブランドル家が優位に立ちつつ、微妙な均衡を保っていたかに思われていた。
それがロザリーの死により、天秤は大きくブランドル側に傾くだろうと誰もが予想していた最中で、この騒動である。
お互いを牽制しつつ、水面下で攻防を続けていた両家の勢力図に変化の時が訪れ始めていた。
グレースがラルドと再会したのは、そんなころであった。