白い雪が降り積もるように
「猿みたいに真っ赤」
「うるさいよ。こっちは色々我慢してるんだからね」
不機嫌そうに言っているけど、その声にはいつものような苛立ちは込められていない。
穏やかで慈しみのある声だ。
「……大変だね、色々と」
「分かったなら目を閉じてよ……」
すると、また彼の顔が近付いてきた。
そして、当たり前のように唇が重なる。
離れると顔を見合わせて、笑い合う。
そんなごく普通の恋人達がすることが私にとってかけがえのない時間だった。
本当に幸せだった。
だからこそ、私は彼の前から去る。
彼の幸せを願って──。