ほしの、おうじさま
……まぁ、丁度コーヒーも淹れ終わったみたいだし、同室で仕事しているんだから同じ方向に歩いて行くのは仕方のないことではあるんだけど…。

でも、仲良く肩を並べて室内に入って行くのはすこぶるイヤ。

さっさと先に行ってしまおうと、さりげなく歩く速度を上げたその時。


「失礼いたしました」


5、6メートルの距離まで近付いていた宣伝部の出入口から人が出て来て、室内に向かってお辞儀しながらそう声を発する場面を目撃した。


「あ」


その姿が視界に入った瞬間に正体は分かっていた。


「えっ…」


体の向きを変えて数歩歩き出したその人物…野崎さんは、廊下の先にいた私達に気が付き、怪訝そうに短く声を上げながら立ち止まった。


「あ、お、お疲れ様~」


私は何故か焦りながら、彼女に小走りに近付きつつ、先手を打って挨拶を繰り出す。


「今、休憩中で、給湯室に飲み物を取りに行って帰って来た所だったんだ。野崎さんはどうしたの?」

「……広告代理店の方が受付にいらして、宣伝部長の所までご案内したのよ。事前にそうするように指示されていたから」

「そ、そっか。野崎さん、受付担当だもんねー」


私はウンウンと頷きながら改めて彼女の装いに視線を向けた。

淡い桜色のジャケットとベスト、同色の膝丈のフレアースカート、白いブラウスと緑色のスカーフと茶色のローヒールのパンプスがワンセットになっている、その職務の象徴。
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