ほしの、おうじさま
「ええー!」


私は慌てふためいた。


「ほ、星野君!8階から出火だって」

「うん。そうみたいだね」


コクッと頷いてから星野君は続ける。


「急いで逃げよう。すぐ上の階だし。ぐずぐずしていたら危ないからね」

「う、うん」


などと会話を交わしていると、背後の階段室がにわかに騒がしくなった。

そちらを見やると、重役の方や秘書課の皆さんがハンカチで口元を覆いながら階段を下りて来る。

しかし火災現場から逃げて来た割には焦っている様子は微塵もなく、とても落ち着いていた。

さすが、上に立つ方や優秀な方は緊急時にも冷静なんだな……。


「あっ」


と、そこで私は遅ればせながらその事実に気が付く。


「確か阿久津君、今一人でいるんだよね?」

「うん」

「全然姿が見えないけど大丈夫かな?」

「え?大丈夫でしょ?」


キョトンとしながら星野君は言葉を繋いだ。


「子どもじゃないんだし。すぐに後から来るよ」

「で、でも…」

『いててて…』


……え?

突然脳内に響いた声に、私は思わずフリーズする。


『何でこんなドアの近くに段ボール箱なんか置いてあんだよ』


この声は…。


「どうしたの?星さん…」「ご、ごめんなさい。ちょっと待って」


星野君に問いかけられたけれど、私はそれをはね除けた。

だってそうしないと、弱々しいその音声がかき消されてしまいそうだったから。
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