ほしの、おうじさま
だからやっぱり余計な事は言わない方が無難であると、私は改めて、自分の恋心を胸の奥深くに秘めておく決意をしたのだった。

「……という訳で、このように年間を通して様々な行事がある訳ですね」

ランチタイム終了後、午後の研修へと突入し、徐々に強くなってくる眠気と必死に格闘しながら進行役である陣内課長の話を聞いていた。

「注意していただきたいのはこの、毎年10月下旬頃に行っている避難訓練ですね。一応月までは告知していますが、正確な日時までは明かす予定はありません」

「え。教えてもらえないんですか?」

「抜き打ちってことでしょうか?」

「ええ。そこはあえて伏せています。「緊急事態」というのは字のごとく、突発的に起こるアクシデントの事ですから。そのシチュエーションを経験するというのも訓練の一つになっています」

ポツポツと上がった疑問の声に答えながら、課長は解説を続ける。

「といっても、すでに10月後半のいずれかの日に行われる事が分かっていて、避難経路も頭に入っているのですから、まるっきりのぶっつけ本番という訳ではありませんよね。充分心の準備はできている筈です」

話の中に出てきた「避難経路」とは、研修初日に挨拶行脚で辿ったルート、つまり階段室の事である。
あの時ついでに「災害時にはエレベーターではなくここを使って下さい」と課長よりレクチャーを受けていたのだ。
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