好きにならなければ良かったのに

 晴海の姿を見た幸司はベッドから下りて美幸を庇う様に立つと、美幸の体を押し退け自分の背後へと回らせる。まるで美幸に晴海からの危害を受けないように。

「課長、お元気そうですね。奥様も……」

 晴海の憎しみのこもった表情に幸司は身の危険さえ感じてしまう程で、美幸の体を手で後ろへと更に押し退けようとする。

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私は、課長に捨てられた女ですけどね」
「何をしに来たんだ?」

 晴海と幸司の敵対するような異様な雰囲気に、美幸は怖くなり幸司の背中にしがみ付く。幸司はそんな美幸を横目で見ながら晴海を警戒する。

 まるで美幸を守る騎士の様な幸司の姿に、晴海は胸がチクリとするとフッと笑う。病室へ入ったものの、幸司からは歓迎されていないのが一目瞭然で、おまけに妻である美幸にもかなり嫌われている様子にドアから先へ進めずに立ち止まったままでいる。

「そんなに怖い顔はしないで下さいよ。今日は経過報告へ伺っただけですから、ね、晴海ちゃん」

 晴海の後ろから吉富の声が聞こえてくると、今度はドアから吉富と相田が病室へと入って来る。

「吉富、相田……。いったいどうしたんだ、君達?」

 幸司の後ろに隠れていた美幸も、吉富と相田の顔を見るとホッと胸を撫で下ろししがみ付いていた幸司から離れる。緊張が解けると震えそうになった脚から力が抜け、腰までも抜けそうになる。
 美幸の足元がふら付いたのを見た幸司がすかさず手を差し出し、美幸を抱きかかえるとベッドへと座らせる。

「大丈夫か? 眩暈か?」
「ごめんなさい。こんな時に……」
「辛くはないのか?」
「大丈夫よ」

 心配そうに美幸の顔を覗きこむ幸司は、肩を抱き寄せるとベッドから落ちないように美幸の体を支える。

「大石さん?」

 何も知らない相田が美幸を見て驚いて声を上げる。

「え? どうして大石さんがここに居るの? え? それに会社に来なくなったのに、なんでここに居るの? どうして?」

 事情を知る吉富も晴海も気まずそうに眉間にシワを寄せながら、相田から視線を外し素知らぬ顔をする。
 美幸が会社を辞めたと思いこんでいる相田には美幸が病室にいるのが不思議だったし、何故課長である幸司に優しく抱き寄せられているのかも納得出来ずに晴海の顔を見る。

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