好きにならなければ良かったのに
佐々木と顔を見合わせていると、そこへ丁度香川がやって来る。「遅くなってすまない」と、詫びを入れながら会議室へと入ってきた。
新人二人が顔を見合わせて気まずそうな表情をしていることに気付いた香川は、「何かあったのか?」と二人に訊く。
佐々木は美幸の顔を見ると頷き、美幸もまた佐々木を見て頷く。美幸は香川へ訂正した企画書を開いて差し出すと、一部計算ミスがあったことを報告する。
「間違えて違う資料を渡していたようだな。それは回収する」
企画書のミスについては何も言わず、そのミスしている資料は香川が回収した。そして、代わりの資料を手渡される。
美幸は佐々木と顔を見合わせては受け取った資料を確認すると、さっきの企画書と同じものだがミスを訂正されたものだと気付く。
「これは、さっきの資料と同じ企画ですよね?」
「ああ、そうだ。これは、一番新しく企画したものの資料で、こちらが得意先に提出したものだ。間違って古い方を佐々木に渡したのに気付いたから用意してきた。それを使って簡単に今度の事業について説明する」
淡々と話す香川は美幸が指摘したミスの話はスルーしてしまい、そのまま研修へと入って行く。折角二人で確認作業したのにとそれが無駄になってしまったと二人顔を見合わせてフッと笑う。
「どうした? 何か問題でも?」
「いえ、何でもありません」
慌てて美幸も佐々木も香川の話へと戻ると、それからは夢中になって香川から会社の事業についての説明を受けていた。
香川の研修はまるで学校の授業でも聴いている様なそんな時間で、美幸も佐々木もしっかりメモを取りながら話を聴いている。そして、ふと気付いた点や疑問に思った点があると美幸も佐々木も挙手しては質問をしている。
「お前らここは小学校の授業じゃないんだ、いちいち手を挙げるな」
真剣な表情で香川の話を聴くのは良い姿勢だと二人の熱心な姿に感嘆するも、小学生か中学生の様にいちいち挙手する姿がまるで自分が学校の先生にでもなった気分になってしまうと少し落ち込みたくもなる。
ここは会社であって学校ではないのだからと……