好きにならなければ良かったのに

「よし、これで昼飯にするぞ。昼食が終わったら午後もここで研修の続きをする。午後からは少し社内を案内するから、そのつもりでいてくれ」

 熱心に話を聴こうとする二人の態度は感心するも、どうもまだ学生気分が抜けないのか二人の反応が子ども染みている様子に香川は少し溜息を漏らしている。美幸と佐々木が颯爽と会議室を出て行く姿を香川はまだ椅子に座ったまま二人の様子を見ていた。

「やはり、勿体ない素材だよな…」

 一人そんなことを呟いていると、美幸達とは入れ替わりに幸司が会議室へとやって来る。香川は幸司の姿を見ると、テーブルの上に置いていた資料を重ね片付け始める。あまり幸司と顔を合わせようとしない香川に幸司は冷たい言葉をかける。

「そろそろ新人教育も終わって良いだろう。佐々木を配置させて実践で学ばせろ」
「いえ、今日は二人に社内を案内しシステム課との関わりをしっかり頭に叩きこませます」
「佐々木だけで十分だろう?」

 幸司のその言葉に香川は少し頭を捻る。何故そこまでして新人の佐々木だけを営業部の仕事に就けようするのか。女と言うのが理由で美幸を営業から排除しようとするのか、その点が不可解に感じるしどこか謎めいている。

「大石は私の補佐に欲しい所ですが」

 香川のその言葉に幸司はピクリと体を反応させ香川を直視する。無言のまま香川を見るその瞳は恐ろしい程に冷たいものだ。香川は幸司の表情を見る限りその願いは聞き届けられないだろうと感じた。
 すると、案の定、幸司は香川の意見など取り入れるつもりはないと答える。

「大石は日下の下で事務補助をさせる」
「社内の仕事だけで終わらせるつもりですか?」
「当然だ。大石を外回りで働かせるつもりなど考えてもいない」
「彼女は面白い素材と思いますよ? 課長なら気付いているでしょう?」

 香川はテーブルの上の資料をまとめるとそれをファイルケースの中へと仕舞い込み椅子から立ち上がる。

「余計なことはするな。私の指示に従えないならば、香川、君の配置換えを考えても良いんだぞ」

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