好きにならなければ良かったのに
会議室へ入って来たのは青葉と呼ばれる幸司くらいの年齢の男と美幸の父親である大石部長だ。
「それについて、詳しいご説明をしたいのですが、壁に耳あり障子に目ありと申しますので」
「確かにそうだが。幸司君、いや、榊課長の配下に美幸が何故配属されたのかも謎で。美幸のやるべきは仕事で表舞台に出るのでなく裏で夫を手助けするものだろうに」
腕を組みながら大きな溜め息を吐いた部長はテーブルに寄りかかる。
「課長直属の部下でもあるし、人として信用ある君なら色々と相談もしたい。今後のことも含め……」
「私でよければいつでも喜んで」
「私達親子の運命がかかっているんだ」
少し表情を曇らせた大石部長は腕を組みながら少し眉間にシワを寄せる。その様子を見た青葉もまた同じように表情に陰りを見せる。
「存じ上げてます。では、詳しい話しは、そうですね、二・三日中にはどうでしょう? その頃なら私も時間は大丈夫です」
「その頃なら私も時間は取れるだろう」
話が決まるとホッとする部長だか、あまり顔色が良いとは言えない。そんな部長を心配そうに見ている青葉が医務室へ誘う。
「少し休まれては如何ですか? このところの営業成績についてかなり心労がおありのようですし」
「いや、大丈夫だ。有り難う」
青葉は顔色の良くない部長を気遣いながら、部長と共に会議室を後にした。
そして、その後、営業部へと向かった青葉は営業一課の幸司のデスクへと行く。
「青葉さん、課長は今、日下さんと一緒にシステム課へデモ用のプログラムを見に行ってますよ」
青葉に気付いた吉富が、相田の作成した資料を確認する手を止めてそう声をかけた。
「日下さんとですか?」
「何か問題でも?」
吉富の言葉に少し間を置いて「いいえ、何も」と、青葉は答えるが、その返事はあまり良さそうには聞こえない。
「皆さん、仕事を続けてください」
青葉と吉富の会話に興味を持った社員らの視線が集まると、青葉はニッコリ微笑みながら社員らにそう言葉をかける。そして、吉富の顔を見るとその視線は冷淡なものに変わり視線を逸らす。
(うーん、青葉さんは俺を嫌ってるからなぁ)
どうやら、日頃軽薄そうにしている吉富をよく思っていないのか青葉の視線は吉富にだけ冷たいようだ。