好きにならなければ良かったのに
「さあ、おいで」
幸司の手に引かれた美幸は車から降りると正面玄関まで二人仲睦まじく並んで歩いて来た。しかし、玄関前までやって来ると「西洋風に俺達も入ろうか」と幸司がそう呟くと美幸を抱きかかえた。
いきなりお姫様抱っこをされた美幸は驚いて思わず幸司の首に抱きついた。
「驚かさないで!」
「外国じゃ良くやっているだろう?新婚夫婦が新婚旅行から戻って新居に入る時、こんな風に入るって。俺達も新婚なんだし初めての新居だからいいだろう?」
まさかここでお姫様抱っこされるとは思わなかった美幸はとても幸せな気分に浸り瞳に涙を浮かべていた。『こんなに幸せでいいのだろうか』と、あまりにも幸せ過ぎて怖くなる程に。
「ねえ、このまま私達の部屋まで抱っこしてくれる?」
「うーん・・・確か、俺達の寝室は最上階の三階なんだよな。運べないことはないけど今は体力は温存したいな」
「どうして?」
「ベッドで体力使った方が良いだろう?」
そんなセリフを言われたのでは美幸は幸司に何時までも抱っこさせられない。けれど玄関から中へ入るまではダメだと下ろして貰えなかった。
こんな二人を待っていたのは榊家で新たに雇用した使用人達だ。幸司夫妻のお世話をする使用人が既に5人程いて、二人が玄関から入ってくるのを今か今かと待っていた。
「ご結婚おめでとうございます」
「おめでとうございます」
二人が建物内へと入ると待っていた使用人達が玄関ドア真正面に一列に並んでいた。殆どが女性ばかりの使用人達だが一人だけ年配の男性がそこに立っていた。
「お帰りなさいませ、幸司様」
「ああ、ただいま。遠藤、またこっちでもよろしく頼むよ」
頭を深々と下げた遠藤という男性だけは幸司は知っている顔の様だった。