隣の部屋にフランス人

「お父さんが病気になった。
俺しか家族がいないから、
フランスに帰らなきゃ…」

「……」

何も言えなかった。
何か言いたかったけど、
何も言葉が出てこなかった。

「リリーと離れたくない、俺」

「……」

「でも、お父さんは俺の大切な家族」

「うん…分かってる」

分かってるよ。
お父さんのためにフランスに帰らなきゃいけないんでしょ?
お父さん病気になったんだから
仕方ないよ。
それは王子のせいじゃない。
仕方ないこと…

ってわかってるのに、
どうして涙が溢れるの――――?


「リリー…ご…ごめん…」

「ふっ…」

「本当にごめん…」


王子は何年振りかに泣いたこの私を
優しく抱きしめてくれた。
いつもの強い『ぎゅー』ではなくて、
暖かくて、優しい『ぎゅー』だった。

「ふぇ――…ん」

「俺も泣くー…」

王子の手から落ちた例の紙が、ひらひらと床に落ちた。

それはフランスまでの片道航空券。
出発日は1月5日。
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