all Reset 【完全版】



例の彼女と話してから、良平と亜希、二人のことばっかり考えていた。


忘れてられるのは、授業に集中してるときと店が忙しくなるときくらい。


大学に行っても必要のある時間しか過ごさない。


用が無ければすぐ帰るようにしている。


ばったり良平や亜希に会うことを自分から避けていた。



「ねぇ……煙草、一本ちょうだい?」



女は空箱を見せると、俺の煙草に手を伸ばした。


折れそうな細い腕が、俺を跨いで煙草の箱にたどり着く。


一本取り出すと、吸い慣れた手つきで火をつけた。


浮かんでくる煙に目をやりながら、女の指先につい見入ってしまった。


透明感のあるネイルアート。


ラインストーンで派手やかなその爪に、ふと亜希が連想される。



ネイルアートに気を抜かなかった亜希……。



「……何? どうかした? じっと見て」



見入る視線に気付いたのか、女は妖艶な笑みを浮かべて俺の顔を見上げていた。


誤解を招きそうな雰囲気にハッとする。



「いや……別に」


「何か今日変だよ? どうかしたの?」



そう言って、女はさり気なく腕に指を絡めてきた。


“年上の女”ぶってる態度をされ、ため息が出そうになる。


『今日、変』って言われるほど、何度も会ってるわけじゃない。


触れられてる女の指先を見て、また亜希のことを思い出してしまう。



この手が亜希だったら……。



なんて錯覚にまで陥る。



「ねぇ、聞いてる?」


耳元で聞こえる女の声に一瞬で我に返った。



やばい……

重症だ……。



自分に呆れ、苦笑が漏れる。


絡まる女の手をそっと離した。



「俺さ、もうすぐバイトだから」



そう言って立ち上がった。


< 210 / 419 >

この作品をシェア

pagetop