bajo la luz de la luna
「未来はまたパエリアセットか?本当に好きなんだな。」

「……ええ。パエジャがないとアタシの人生がつまらなくなるわ。」



 群から“好き”という単語が出ると、不覚にもアタシの心の奥が反応してしまう。ズキン、でもドキン、でもない。コップに冷たい水を注ぐような“トクリ”という音が、体の左側から全身へと広がるのだ。

 注文した物が全てテーブルに並び、アタシ達は静かに食事を始めた。チラリと左に目をやれば、アタシを越えた窓の向こう側を、“彼”はぼんやりと眺めていた。



『ボス、そんなに神小柴さんが気になるの?』

『何言ってんだよソニア、ボスと群さんは将来を共に歩む間柄だろうが。確かに、ボスにしては熱っぽい視線だがな!』



 上司をからかう部下達を視線で一喝すれば、苦笑と共に上がる二人分の両手。アタシの右側に居る部下は、黙々とパン・コン・トマテ――パンの表面に熱したトマトをすり付け、オリーブオイルを垂らした料理を口に運んでいた。

 悟さんのパン・コン・トマテは日本の群馬県産のトマトを使用していて、スペイングルメに欠かせない生ハムや数種類のチーズが乗っている。洒落を利かせたきんぴらごぼうも、さりげなく。
< 36 / 268 >

この作品をシェア

pagetop