ハルとオオカミ


ぽたぽたと髪から水滴を落としながら、マンションのエントランスに入る。エレベーターで上階へ移動する間は無言だった。


今までは土砂降りの雨の中にいたから、外の音が聞こえなくなるとますます自分の心臓の音が大きく聞こえてくる。


今から本当に五十嵐くんのお家に行くのかと思うと、だんだんと緊張してきた。ああ、我ながらすごいことを口走ってしまった。


ていうか、ご、ご家族の方はいらっしゃるのでしょうか。お母さまとか……。

五十嵐真央くんという尊い存在を育てたお方なんだから、さぞお美しいんだろうな。尊さに目を焼かれてしまうかもしれない。


ドキドキしながら考え事をしていると、チンという音とともにエレベーターが目的の階に到着した。


エレベーターを出て、いちばん奥の角部屋の前で五十嵐くんが立ち止まる。彼が鍵を開けている間、そわそわして落ち着かなかった。


ガチャ、と音を立てて玄関の扉が開かれる。五十嵐くんのうしろからおずおずと中へ入っていった。

玄関には特に目立ったものは置かれていないけれど、掃除が行き届いている様子で、しっかり整頓されていた。



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