ハルとオオカミ


教室内もいつもより騒がしい気がするし。女子たちはお揃いの髪型にしたり可愛らしくハチマキ巻いたり。男子は騎馬戦の作戦会議してたり。


私も今朝、制服じゃなくて体操着に着替えたときから、なんだかウキウキしていた。体操服姿で登校するのって、家を出る瞬間から『今日体育祭だー』ってドキドキワクワクしちゃうんだよね。


それに去年の体育祭は、五十嵐くんがサボって欠席してめちゃくちゃ落ちこんだからなあ……。


私は五十嵐くんが汗を流してグラウンドを駆ける光景が見たかった。

クラス想いの委員長がクラスメイトの活躍をカメラに収める名目で撮影し、爽やかな音楽が流れる推しのPV映像を作りたかったのに。


だから今年も放っておいたらサボるだろうと思って、ちゃんと本人に確認をとっておいた。

『体育祭参加するよね?』と期待のまなざしで見つめ、『参加する』と言質をとっている。今年こそ親から借りたデジタルカメラが火を吹くはず。



「おーーい。席着け~。ホームルーム始めるぞ~」



――と思っていたのに、始業の時間になっても体操服姿の五十嵐くんは私の前に現れなかった。

始業を告げるチャイムの音が遠くで聞こえる。絶望のあまり私は天を仰いだ。ガッデム。


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