ハルとオオカミ
ばちりと目が合って、私は動きを止めた。
「…………あ」
そこには、夢にまで見た推しの体操着姿があった。
ダボっとゆるい感じで着られた真っ白のTシャツと紺の長ズボン。林檎のように真っ赤で、紅葉のように鮮やかで、太陽みたいに目を惹きつける髪。
そしていつもは耳についているシルバーのピアスが無くて……横髪が。いつもは頬にふわりと垂れている短い横髪が……耳にかけられている。それをあ、あ、アメピンで留めてる……なんて……。
「は、反則では……? イエローカードでは……?」
「……なあ、こいつどしたの。息荒いけど、熱でもあんの」
「あー、ちょっと一時的に頭が沸騰してるだけだから大丈夫。てゆーかあたしちょっと急ぎの用事思い出したから、この子頼むね。五十嵐」
「え? あー、まあいいけど」
気を利かせてくれたらしいアキちゃんは、頭が沸騰している私を無慈悲にも五十嵐くんに預けて去っていった。
待ってほしい。私は今、五十嵐くんを見たら湯を沸かす機械と化しているのに置いていかないでほしい。