王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


そうして、塔を下り馬車に乗らされ、ほぼ一日かけて辿り着いたのが隣国であるグランツ王国。

そして、どんな仕打ちを受けるんだろうと不安に襲われながら案内されたのが、この広く綺麗な部屋というわけだった。

馬車の中で、他の王族はみんな捕えられたという話を聞いたけれど……正直、心配するだけの関わりを今まで持ってこなかっただけに、思うことはなかった。

男の人は私に気を遣ってか、〝捕えた〟という言葉に留めたけれど、つまりはそういうことなんだろうと想像がつく。

一応、血の繋がりがある国王さえどうでもいいと思ってしまう私は……母を苦しめた国王が、心の底ではずっと憎いと感じていた私は、冷たいのだろうか。


「国王が母を見初め、子どもまで設けたのは国からすれば予想外の出来事だった。ずっと守ってきた血筋に平民の血が混ざることをひどく嫌っていたから……だから、母と私はあの塔に隔離されていたんです。
周りの目から隠すために。そして、その汚れた血が私で終わるように」

窓際に立ち、外の景色を眺めながら話す。

見慣れない景色は、どんなに眺めていても飽きる気がしなかった。

十八年間、小さな窓から同じ景色ばかりを眺めてきたから、こんな大きな窓から庭を眺めるなんて初めてだ。

日の落ちた空には星が瞬き、暗くなった庭を王宮から漏れた明かりが照らしていた。
小さな噴水から弾かれる水がキラキラとしていてとても綺麗だった。

まるで、絵本のなかの世界だ。

「血筋ねぇ……」

ソファに座った男の人に、くだらない、とでも言いたそうな笑みのこもった声で言われ、苦笑いを浮かべた。

「あの王国にとって、それは絶対だったんです。だけど……そんなの間違ってる。だから、革命が起きたって気付いたとき、よかったとさえ思いました。これでこのおかしな関係は壊れるんだって」

そこまで言ってから、ゆっくりと振り返る。
そして、大きなひとり掛けのソファに座っている男の人と目を合わせた。

「私を殺さないんですか?」

静かに聞くと、男の人は驚いたように目を大きくし……それから「殺さないよ」と少しだけ苦しそうに微笑む。

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