王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「私はたぶん、自分を大切にできないだけで、シオンさんが思うような女じゃありません。結果的にガイルを庇った形になっただけです。だから……」
「だから、諦めろって? そんな可愛い声でひどいこと言うね」
途中で遮られた言葉に驚いて見上げると、優しい微笑みがあった。
さらさら揺れる黒髪の間から、綺麗な青い瞳がのぞいていた。
「クレアが自分に価値を置いていないっていうのは、今までの会話でもなんとなく気付いてたけど……まぁ、そこは育ってきた環境が環境だし仕方ないから、じょじょにでも変えていければいいと思ってる」
そう穏やかな声で言ったシオンさんが続ける。
「クレアがどう考えていたとしても、あの時、ガイルを逃がして欲しいって訴えてきた目に嘘はなかった。あいつを守りたいって、それだけに見えた」
最後に「悪ぶったって諦めないよ」と口の端を上げたシオンさんに、眉をひそめた。
「ぶってるんじゃなくて、本当に悪い女なんです。ひどいことだって平気でできますし」
「こんな小さな花見ただけで目キラキラさせてた子が? 本当だったら、どんなひどいことができるのか見てみたいな」
余裕を浮かべた表情にムッとして黙る。
そして、シオンさんにどうにかひどいことができないかと考え……そうだと口を開いた。
「正直に白状すると、シオンさんのこと若干変態だと思ってます」
常々思ってたことだ。
突然のカミングアウトに、シオンさんはキョトンとした顔をしたあと「それがひどいこと?」と、おかしそうに笑う。