王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「充分すぎるくらいです。私をここに連れてくるには、きっとたくさんの手順を踏まなきゃだったのは、私にもわかります」
捕まえた隣国の王族を外に出すなんて、普通なら許さない。
それは、いくらこのグランツ王国がおおらかでも変わらないはずだ。
グランツ王国が……シド王子が私をこの先どう使うつもりなのかはわからないけど、逃がしたりしたら問題になるから。
それなのにシオンさんは、こうしてここに連れてきてくれた。
きっとたくさんの反対にあったに違いない。
「感謝してます」
じっと隣を見上げると、シオンさんは瞳に驚きを浮かべたあと、それを細めた。
「たいしたことじゃないよ」
たいしたことだったハズなのに、それを見せずにさらっとそう言ってしまうところに、ふっと心の底が温かくなり、なんだろうと不思議に思う。
胸の奥が、ふわっと温かくそして軽くなったような、おかしな感じがする。
少しだけ落ち着かないような、ドキドキするような、変な感じだ。……でも、嫌な感じではない。
繋がったままの手を、キュッと握られ……そこを見つめながら口を開いた。
「シオンさんは、私がガイルを守ろうとしたことを、ずいぶん買ってくださってるみたいですが」
シオンさんの視線が私に留まったのを視界の隅で確認しながら「本当は違うんです」と続けた。
花を揺らすように吹く風が、腰まで伸びた髪をさらさらと揺らす。