王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「クレア様」

椅子に座り、ただテーブルの上に飾ってあるすずらんを見つめていたとき、ジュリアさんが声をかけてきた。

「私、ガイル様をこの部屋に連れてきます。もしものとき、ふたり一緒の方が守りやすいですから」

そう言い微笑むジュリアさんを見つめ返した。

「守る……ですか」

もともとは敵国であった私やガイルを守ろうとしてくれていることに、胸が熱くなり……同時に痛む。

「クレア様?」
「いえ。なんでもありません。……お願いします」
「では、すぐに戻りますから。クレア様はこの部屋でお待ちください」

ジュリアさんは足早に部屋を出ると、外から鍵をかける。

ひとりきりになった部屋にカチャリという音が一度響いてから……そっと立ち上がり、本の間に隠してあった針金を取り出した。

『こんなもんしか用意できなかったけど、逃げ出すとき、何もないよりはマシだろ』

いつかガイルがメモに挟んで渡してくれたものだ。
まさか……こうして使う日がくるなんて思わなかったけれど。

針金を握りしめ、ドアに駆け寄る。
このドアには簡易的な鍵がひとつと、きちんとした鍵がひとつ、ついている。

いつも、就寝時はふたつとも閉められているけれど、ジュリアさんが少しだけ席を外す時には簡易的なものしかかけない。
今もそうだ。

ドアの前にしゃがみ、鍵穴にふたつに折った針金を入れる。

ここの簡易的な鍵が、塔のものと同じでよかったと思う。

もしものことがあったときにと『この種類の鍵なら開けられるからおまえも覚えておけ』とガイルに昔教わったから。

ガイルが初めてこの部屋にきたとき、この鍵の種類を確認して、使えると思ったから針金をくれたんだろう。

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