久遠の絆
「どこか誰も私を知らないところへ行きたい」


ハイエナのように自分に迫る父親も、般若のような形相で自分を殴り続ける義母も、冷たい視線を送ってくる教師もクラスメートも……。


誰もいないところへ行きたい。


(死んでしまえたら、どんなにいいだろう)


ふとそう思った。


そして手首に巻かれた包帯を見た。


これは、自分が生きていることを確認するための傷だった。


でも、生きていて何の意味があるのだろう。


そもそもどうして自分はこの世に生まれてきたのか。



「死にたい……」



ふと呟いたことが、言霊となって彼女を縛る。


「死ねたら、楽になれるんだ……」


ふらふらと立ち上がり、開けることなど考えもしなかった鍵をカチャリと捻った。


そして物音を立てないように階段を下り、玄関の上がり框に立つと、居間の方に耳をそばだててみた。


テレビの音が聞こえるだけ。


義母が動いている様子はない。


そろそろとサンダルを履き、息を殺して玄関の扉を開け、音を立てないように締めると一気に駆け出した。 




走って走ってーーー。



まだ人通りの多い、明るい商店街を抜けた。


そして曲がり角を曲がった時だった。


黒塗りの車が見えた。


と思い身をかわした瞬間、右半身に鈍痛が走った。


痛いと感じる間もなく、蘭はそのまま意識を手放した。


(ああ、わたし、これで死ぬのかな……)







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