久遠の絆
(あ、だめ)


硬度の弱い宝石のように、もろく崩れてしまいそうな気がして、蘭の胸がずきりと痛んだ。


思わずまじまじとその瞳を見つめていると、カイルはその視線から逃れるように目を閉じ大きく息をひとつつくと思い切ったように顔を上げた。


「蘭さまにはどうしても本日中にわが帝国に来て頂かなくてはならず、一刻の猶予もないため、事前にご説明することも叶いませんでした。お詫び致します。」


「帝国?」


「はい」


「帝国って?ホテル?」


一流の。


カイルはゆっくり頭を振った。


そして、そのまま蘭の顔をじっと見つめている。


「な、なんですか?」


まともに宝石のような薄緑色の瞳に見つめられ、蘭の思考は停止寸前。


(綺麗過ぎる人は、遠目で見るに限るよう)


「蘭さま」


低すぎず、高すぎず、耳に心地よい声。


「は、はい」


「おなか空きませんか?」


急にざっくばらんな口調になったカイルは、いたずらっ子そうに笑っていた。


(こんな表情もするんだ)


彫刻のような印象の彼が、人間らしさを見せてくれて蘭は少しほっとしたのだった。


「お、おなか?」


そう思うと、急に空腹を感じてきた。


そう言えば晩御飯を食べずに家を飛び出していた。


「早速お食事の用意をさせましょう」


言って、カイルは自動ドアのすぐ脇の壁に据え付けてあるインターフォーンにつかつか
と歩み寄り、受話器を手にして「頼む」と短く言った。


「すぐに参りますから」


優雅な所作で身を翻した彼の体を覆うように、マントがひらひら揺れている。

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