久遠の絆
「行ったか……」


報告を受けたジュラークⅠ世は、前に座る少女の顔を盗み見た。


その視線に気付いたのか、彼女は兄を見つめ微笑んだ。


その微笑に、いつもの天真爛漫さはない。


「お前との婚約を急ぐように言ったのだが、な」


「カイルにはカイルの考えがあるでしょう。にいさま」


「……あいつじゃなければ、背任罪に問うてやるんだが」


アニーシャはくすくすと笑った。


「あの人を罪人になんて出来るわけないでしょう。誰よりもこの国を思う、あの人なのに」


ジュラークⅠ世は妹を見つめた。


それを彼女はきょとんとした顔で見返している。


そしてスッと視線を外したジュラークⅠ世は、

「帝国の落日だ」

と呟いた。


「……」


「皇室には私とお前しかいない。どちらかに何かあれば、もはや帝政は成り立たないだろう。
平和は悠久のものであると、信じて疑っていなかったのがそもそもの間違いか。もはや帝国は滅ぶべき時に来ているのかも知れんな」


「にいさま……」


「だが、あいつは、カイルは最後まで守ろうとするんだろうな。家臣が自分ひとりになっても、誰も俺たちを顧みなくなった時にさえ、あいつは俺たちに仕えようとするだろう。
アニーシャ」


「はい」


「俺たちはあいつを縛り続けていていいのか?あいつに婚約を早めるように言いながら、俺はずっと自問していた。この先帝国が滅ぶ運命にあるなら、お前とカイルが婚約することに意味があるだろうか。あいつを俺たちから解放してやることこそ必要なんじゃないか、と。

そしてお前も。お前も皇女でなくなれば、ひとりの女として、普通の恋をして幸せになることもできるんだ。そうなれば今こうして足掻いていることなど、すべて無意味なことではないか」


「……にいさまは、いろいろ考えすぎるのね」


「……」

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