久遠の絆
記憶がシンクロする。


それは元の世界で受けた、辛い虐待の記憶。


何故か、自ら傷付けた手首の傷までが、ズキズキと鈍く疼き始めた。


「もうやめてー!」


蘭の悲痛な叫びが、砂漠の静寂に吸い込まれるように消えた。


腕の中で頭を抱える蘭を見下ろしたシドは、そのただならぬ気配に眉をひそめた。


「蘭、どうした?」


「蘭!」


「やめてよ……」


頭を抱えて俯いたきり、顔を上げようとしない。


どうやら争っている場合ではないらしい。


シドは、蘭を横抱きに抱え上げると、洞窟に向かって歩き始めた。


マトも口を出すことなく付いて行った。







イーファンの部屋。


蘭はそのベッドで眠っている。


「蘭さんは懸命に闇の中から抜け出ようとしています。ですが、その傷は深く、なかなか癒えるものではありません。彼女の前ではなるべく、怒鳴り声や暴力は控えてあげて下さいね」


イーファンは蘭の額に手を翳しながら、静かな声でそう言った。


「気持ちを静める術を施しました。しばらく眠るでしょう。私が側に付いていますから、皆さんはあちらへ」


「イーファンに任せよう」


シャルティも退室を促した。


神妙な面持ちのマトは素直に頷いて、シャルティと共に出て行った。


シドは不服なのか、ベッドに横たわる蘭を見ている。


「あなたも」


イーファンは再度促した。


「あんたは蘭から聞いているのか?」


「……直接には聞いてません。ですが、感じることが出来ますから」


「癒えることはないのか?」


「完全に、ということであれば難しいのではないでしょうか。女性として、人として、もっとも過酷な体験でしょうから」


シドは痛ましそうに目を閉じた。


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