100回の好きの行方
 その姿が篤人には、スローモーションのように見えた。

 この事が解決するまでは、貴乃も嘉也も、麻嘉を会社には出勤させるつもりはなさそうだが、その後も、何故か会えなくなるような気がして、何とも言えない感情が心を支配した。

 そして気がついたら、兄とともに帰ろうする麻嘉を追いかけていたのだ。

*******

「今夜会うんだろ?麻嘉に。」

 尚志の声に、回想から現実へと戻された。

「あぁ。ファミレスで。」

「ファミレス?また、色気ないところだな。」

 麻嘉を追いかけた篤人が、彼女の腕を掴み、話がしたいと訴えると、返ってきた言葉は、"会社近くのファミレスで。"だった。

 家も何回も来たことあるのに、何故ファミレスなのだと疑問しか浮かばなかったが、承諾した。

「なぁ俺、すごい近くにいたのに、麻嘉があの時の女なんて、全然思わなかった。バカだよな。」

「近くにいたから、逆に分からなかったんじゃないか?」

「そうかもな。」

「お前さ、あの時の女に抱いてるのは"好きって気持ちじゃない"とか言いながら、好きだったんじゃねーの?」

「……そうかもな。」

 尚志はからかって言ったつもりが、清々しく語る篤人に、ノロケられそうで、これ以上言葉をかけることは出来なかった。

 
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