100回の好きの行方
 すがり付くように、必死に訴えてくる菜月の姿に篤斗は呆れる。

 そんな姿を横目にしながら着替えたくて寝室に行こうとすると、後ろから抱きついて腰にしがみつき、執拗に胸を押し付けてくる。

「離れろ。」

 自分が思った以上に低く冷酷な声が出た。

「離れない。…私、篤斗のこと好きだよ。」

「だから?」

「エッチしようよ?そしたら、私の良さがわかるよ。」

 しがみつきながらそんなセリフを言う菜月に、篤斗は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。麻嘉に煽られた時は抱かなかった感情に、二人に対しての自分の気持ちの"差"を感じてしまう。

「離れろ!」

 再度強く訴えると、菜月はゆっくりと手を離した。

 二人を沈黙がつつむ。

「仕事じゃ、あの人には負けないから。」

 篤斗はたびたび菜月が見せる麻嘉にみせる対抗心を不思議に思っていた。

 やたらとつっかかったり、麻嘉のことをけなしたり。

 だからいくら自分のことを好きと言っても、麻嘉に対抗してるようにしか思えずにいた。

 だが、菜月を利用し麻嘉のまっすぐした気持ちから逃げていたのも事実だ。

「あの鋏、何で篤斗が持ってるの?」

 菜月は、棚の上にある"例のはさみ"を見ながらそう呟いた。

「えっ?はさみ?」

「うん、あの鋏、ずっと探していたの……。」

 菜月のこの言葉が嘘とも知らず、篤斗は菜月にこの鋏を渡してしまった。

 
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