サンタクロースは君だった
「ねぇ、ひかりちゃん。」
「ん?」

 何度こうして優しく名前を呼んでもらっただろう。初めて経験するこの空気に、この距離に戸惑ってばかりだけれども、名前を呼ばれるだけでこんなにくすぐったい気持ちになれるのはきっと名前を呼ぶのがレオだからだ。

「今日の質問はね、ずっと前から考えてたことなんだ。」
「…そう、なんだ。じゃあ…頑張って答えます。」
「うん。じゃあ、…言うね。ひかりちゃんはどうして、冬木レオンの曲を好きだなって思ったの?」
「え…?」

 出会った頃を、どうにかこうにか思い出してみる。デビュー時にはちゃんと知っていたから、3年前には知っていたことになる。
 「勿忘草」を街中で聴いた。その歌詞が気になってしまった。

「『勿忘草』に、『あの頃の僕には、好きだという勇気がなかった』って歌詞があるでしょ?あれがすごく好きで…というか、まさに自分のことを言われてるみたいだなって思ったの。」

 人を好きになることは、多分何度か経験してきているのだと思う。思わず目で追い掛けて、話せるだけで嬉しくて。それでも、それ以上を踏み込むことが怖くてできなかった。

「『遠ざかる背中が寂しくて、もう二度と会えない君を想って何度も泣いた』とか、私は経験してないけど…でも、寂しさを感じるときはそれに近かったのかなとか。…その、レオくんとも仲良くしてたのに突然いなくなっちゃったから…。」
「そうだね…。」
「だから、どうして好きだなって思ったか…っていうと…歌詞に親近感を覚えたから…かな、多分。歌詞がとても素敵だったから!うん。そうだ!あと声。…これは、少しだけ懐かしい気持ちになったからで。」
「…ひかりちゃんに届いてたんだ。ちゃんと。」
「え?」
「あー…だめ。ごめん、ひかりちゃん。」

 そっと腕が離れていく。レオが両手で顔を覆った。

「レオ…くん?」
「ごめん、今顔が無理。」
「え…?私何か間違ったことを…。」
「言ってないよ。言ってないんだけど…ごめん。むしろ大正解すぎて…顔が緩んでる。」

 指の隙間から見えるレオの顔が赤い。そんなレオは可愛い。
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