吐息のかかる距離で愛をささやいて
「本気で別れるつもりなの?」


「あぁ・・・」



「じゃあ、何でもっと早くに言ってくれなかったの?」


「夏帆・・・」


「だって、そうでしょう?もっと早くに言ってくれたら、引っ越す必要なんてなかったじゃない。」


「君はいつも冷静だね。」



「え?」



「そうだろ?だって僕が別れてくれって言ってるのに、君の心配は住むところ?」



この人は何を言ってるのだろう?住むところを心配するのは当然だ。



「僕はね、君ほど強くはないんだ。」



私の弱さをわかってくれていると思ったのに。



「それに、夏帆は子どもが欲しくないって言ってただろ?夏帆には言いづらかったけど、僕は本当は欲しいんだ。」



その一言ですべてが終わった。



「心配しなくても、すぐに出て行けとは言わないよ・・・」


「いい。さようなら。」


「え?夏帆?」



それから私はまだ引っ越しの名残のあるクローゼットの中から自分の服を取り出してキャリーケースに詰めた。



色々な感情が入り乱れて涙も出なかった。


彼が横で何か言っていたが、気にも留めなかった。


そして私は家を出た。



彼が、同じ総務課の女の子と結婚するという話を聞いたのはその次の週のことだった。



しかも、彼女は妊娠していた。


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