この恋を、忘れるしかなかった。
「もう、霧島くんまでからかわないで!」
「あはは」
…心臓に悪いーーわたしの視界に入る霧島くんは、やんちゃな悪ガキの顔で笑っていた。
わたしと霧島くんが仲良く見えるのは、やっぱり絵のことがあるからかな。
「……」
霧島くんがわたしと仲が良いと言ったのも、絵のことで個人的に関わっているからかな。
もちろん絵のことは、わたしと霧島くん以外は知らない事実だけれど。
でも、きっとそうだよね。
見えないところで通じ合っている様な、不思議な感覚がわたしを包み、それがじんわりと表に出てきてしまいそうだった。
そして繋がり、絡んでいくようで、ひとりでに動き始めてわたしを支配する。
ふいに霧島くんを見たら、霧島くんもわたしを見ていた。
いつもは見せない穏やかなその表情に、わたしはまた、ドキドキする。
それは、こんなにも余裕のないわたしを、更に追い詰める。

「あ、雨!」
「え、雨⁈」
美雪ちゃんが窓ガラスについた雨粒を指差し、それに反応する恵ちゃん。
ぽーっと霧島くんを見ていたわたしは、2人の声にハッとして、霧島くんから視線をそらした。
「美雪傘持ってないから、急いで帰らなきゃ」
「あたしもー!早く帰ろ、美雪」
ーー次第に暗くなっていく空。
「じゃあ駅前のコンビニ寄ろうぜ。菓子のついでに傘買えば?名案じゃね?」
「勝手に寄れば?おごらないし」
「まだやってんのかよお前ら。付き合えよ、マジで」
ーーそれとは逆に、明るい雰囲気の教室。
恵ちゃんと藤井くんのやりとりに、甲斐くんが少しあきれ気味だった。
「オレ、後で帰るわ。ちょっと忘れ物思い出した」
「わかった。じゃあな響。リカちゃん先生もバイバーイ!よし恵都、コンビニ行くぞ」
「藤井くんまだ言ってんの⁈」
「あはは、みんな気をつけてね」
わたしは手を振って、みんなを見送った。
静かになった教室に、わたしの心臓の音が響いてしまいそうで……どうか霧島くんに聞こえませんようにと、そっと祈った。
前にも似たような事が、あったような…。
「き、霧島くんも、早めに帰った方が……」

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