この恋を、忘れるしかなかった。
でもきっと恵ちゃんの言う通り、あの3人が揃ったらロクな事がないのは本当なんだろう。
それをさっき、わたしは身をもって経験したのだから…。



家に着くなりお風呂に入り、1人だからご飯もテキトーに済ませたところで、ケータイの着信音が静かな部屋に響いた。
そのディスプレイを見て、少しテンションが上がるわたし。
「もしもしー?いきなり電話かかってくるんだもん、旦那かと思ったよー。久しぶりだね亜子」
「ふふ、梨花子は相変わらず元気そうだね」
「えーっ、そんなことないし」
電話の相手は市野(いちの)亜子(あこ)といって、わたしの高校時代の友人ーーー亜子は独身だけど、お互い仕事もあるいい社会人のためか、年々会う機会が減ってはいるものの、それでも必ず連絡は取り合っている、そんな関係。
高校の頃はいつも一緒だったけど、今は付かず離れずのいい距離感。
お互いを理解し合っているからこそ、成り立っているのだと思ってる。
「旦那さんは?」
「ご飯食べてから帰るって連絡あったから、もう少ししたら帰ってくるんじゃない?」
そんな亜子からの電話が、単純に嬉しかった。

「そんなことより亜子聞いてよ~。今日罰ゲームとやらの対象になってね、生徒からイタズラで告白されたし」
「イタズラで告白?何それ?」
あははと亜子の笑い声が聞こえた。
「”安藤先生のことが好きです。”だって」
「すごいじゃん!楽しそうでいいなぁー梨花子は。で?梨花子は何て言ったの?」
亜子は興味津々状態になっていたけど、思い出したことで再び恥ずかしくなったわたしは、話した事を少し後悔していた。
「何も…。久々かなりテンパって、恥ずかしいなんてもんじゃなかったし」
「あはは。そういえば昔似たようなことあったよね?」
「…そうだっけ?」
記憶とは不思議なもので、自分自身が忘れ去ってしまっていても、他人の中にしっかりと刻まれていたりする。
「そうだよー。高1?高2だっけ?朝の登校中に……」
あぁ、思い出した。




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