【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「……っ!! ……っき、君も僕とおなじなのっ!?」

驚きに目を見開いたダルドは、やっと会えたかもしれない自分と同じ人型聖獣の彼の衣を震える手で掴んだ。

「あぁ、同じさ。私たちはこの悠久に住むかけがえのない仲間だ」

「……なか、ま……?」

久しく耳にするダルドを受け入れてくれた優しいその言葉。それは彼の氷ついた心をゆっくり解かしてくれるような魔法の言葉だった。
やがて解けだした氷の一部が瞳から熱い涙となり、ダルドの頬を濡らしていく。

「っ、ぅっ……」

肩を震わせ泣き出したダルド。

「…………」

(……怯えた瞳に時折見られるこの戸惑いは……)

悲痛な姿を目にしたキュリオはボロボロになった彼の心や置かれた境遇が読み取れ、胸の奥が締め付けるように痛んだ。

「行くところがないのなら、私の家においで」

慈悲にあふれた笑みとともに目の前に差し出された真っ白な手。

この暗い森で白銀の髪をもつ自分の姿はとても目立つと思っていたが、それ以上にキュリオと名乗った青年は特別目を引くものがある。
それはこの見事な翼のせいだけではない。

彼が全身に纏う淡い光がただ者ではない何かを強く感じさせ、この美しい瞳と言葉に偽りはないと信じさせてくれた。

「……キュ、リオ……」

差し出されたキュリオの手が嬉しく、ダルドも右手を伸ばしたその時――……


――ガサガサッ


キュリオの背後で不気味にその身を揺らした草木たち。

「……っ!!」

いうまでもなく、その音に激しく動揺を見せたのは人型聖獣のダルドだ。

「……っだ、だめ、……ぼ、僕……一緒にいけなっ……」

伸ばした右手をダルドは勢いよく引込め、呼吸荒くよろよろと立ち上がる。
やがて姿を現したのは――……

「見つけたぞっ!! こっちだ!」

その声を皮切りにどんどん近づいてくるいくつもの人の気配。

「っ!!」

あっという間に集まってきた男らの手に握られている物を目にした人型聖獣のダルドは足が竦んで動けない。
先端に鋭利な刃のついた弓矢や短剣が獲物を狙う人間の目のようにギラリと残酷な光を放つ。

「……こいつっ! 散々手間取らせがやって!!」

「役人たちに知れる前にあいつを縛り上げるぞっっ!!」

苛立ちを含んだ声と共にジリジリとにじり寄ってくる男たち。

「……キュ、リオ……逃げてっ!!」
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