【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
振り返ったダルドは背後にいるキュリオの胸元を力いっぱい押し、彼の姿を男たちから隠そうと必死に体を張っている。
しかし細身のキュリオの体はピクリとも動かず、懸命なダルドの手を彼は優しく握りしめた。

「君は私の後ろへ」

「……な、なにをっ……」

穏やかなキュリオの眼差しに驚き目を見開いたダルドだが、不思議なことに心はどんどん落ち着きを取り戻していく。
握られていた手が離れ、キュリオは男らとダルドの間に堂々と立ちはだかる。

「……あ? なんだ? 綺麗な顔の兄ちゃん」

武器など持たぬ丸腰のキュリオの姿を訝しげに見つめた正面の男。彼の背にある真っ白な翼は変わった装飾だと思い込んでいるようだ。

「何やってんだ! 早くしろ!!」

立ち止まった男にしびれを切らした別の男が罵声を浴びせながら正面の男を押し退けて出てくる。

「なんだこいつ……見かけない顔だな」

日の暮れた森の中で動き回れる若者はそうそうおらず、近辺には小さな村しかないため同業者であれば一度は顔を合わせたことがあるはずだった。
が、しかし――

「……なっっ!! つ、翼だとっ……!?」

男の視線がキュリオの全身へ向けられると、この世界の常識を持ち合わせているらしいその男は驚きと動揺に声を上ずらせる。

「猟師(キニゴス)に問う。誰の許可あってこの森へ入った」

まだ気づいていないらしい正面の男はキュリオの言葉を鼻で笑った。

「なに言ってんだ兄ちゃん! 許可なんてあるわけねぇだろ!!」

「……それともなんだ? この森の動物たちがお偉方に通報するってか? 人間様の目さえなけりゃバレねぇんだよっ!!」

己の濁りきった目を指差しながら息巻く男。
すると背後にいた別の男が彼の言葉を合図と受け取りゆっくり弓を構える。

驚くことにそれが狙った先はキュリオだった。

「……っよ、よせっ!! ……っこのお方はっっ!!!」

驚愕し声を上げた先程の男の顔は激しく引き攣(つ)り、いまにも泡を吹いて卒倒してしまいそうな顔色だったが、なけなしの精神を振り絞った彼は弓を構えた近くの猟師(キニゴス)の腕を強く払った。

――ヒュン!

が、それと同時に放たれた無常な矢は冷たい森の風を切り裂き、狙い通り翼のある青年へと向かって速度をあげていく。

「キュリオッ!!」

キュリオの背に隠れ、男らの様子をうかがっていたダルドの悲鳴にも似た声が響いた――。
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