【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
正面にいたリーダー格の猟師(キニゴス)は次に起きる光景を予想し笑みを深めたが、倒れるはずの目の前の青年は無傷のまま地に足をつけている。
「……な、なんだ? ……なにが起きてんだっ!?」
近距離で放ったはずの矢が突然失速し、まるで何かに弾かれたようにその身をしならせ、苦しげな呻き声とともにバラバラに砕けて落ちた。
「――愚かなる猟師(キニゴス)よ。人の身であるお前たちの力では私を傷つけることは不可能だ」
背後で震えていたダルドが覇気のある声にハッと顔を上げると、キュリオの体を包む淡い光がわずかに輝きを増しており、それが彼の怒りと比例しているのだと気づくまでそう時間はかからなかった。
「……っ、間違いないっ! このお方はっ……キュ、キュリオ王だっっ!!」
ひとりの男が偉大な王に許しを請うようにガバッと泥水を啜るほどに頭を擦りつけて土下座する。
すると背後のダルドは大きく目を見開き、威厳を兼ね備えたキュリオの横顔を見つめた。
「……キュリオ……君は王様、なの……?」
「……」
その問いに応えはなかった。ダルドはまさかの人物の登場に息が止まりそうになりながらも、銀髪の青年へと懸命に意識を集中させる。
(……これ、僕知ってる……)
彼を取り巻くオーラも優しさもダルドには心当たりがあった。
そして点と点が繋がった瞬間、足元から駆けあがった震えが頭上を抜けるまで一瞬の出来事だった。
「……っ!」
なぜならば、常にこの悠久を満たしている力がキュリオの気配そのものだったからだ。
土下座した男を冷たく見据えるキュリオはさらに背後にいる男たちへと視線を投げつける。
「ヒィッッ!!」
体が竦み上がるほどの眼光で睨まれ、腰を抜かした男らが尻もちをついて白目をむいていると、複数の馬の蹄の音があたりに響いた。
「キュリオ様! ご無事ですかっ!!」
辺りを取り囲む光の量が増え登場したのは、魔導師の生成した光球を引っ提げた屈強の剣士たちだ。
「罪人を捉えろ」
「ハッ!!」
偉大な王がそう述べると、大柄な剣士らは魔法により特殊な技法で編み出された強力な縄で彼らを縛り上げていく。
その光景を不快極まりないといった眼差しで見つめていたキュリオのもとへ、ベテランの粋に達したであろう剣士のひとりがバタバタと近づいてきた。
「お怪我はありませんかっ!?」
「あぁ、ご苦労。私たちは大丈夫だ」
「ハッ! あとは私どもにお任せくださっ……」
と、頭を下げようとした剣士はキュリオの足元に散らばった無残な矢を目にし、忌々しそうに顔を歪める。
「……王へ刃を向けるなど何たる重罪っ……!!」
その矢を証拠の品として袋に収めた彼はキュリオに向かって深々と一礼すると、縛り上げられた彼らを強く睨みつけ勢いよく身を翻し再びバタバタと走り去っていく。
「……キュリオ……ぼ、ぼく……」
戸惑い、瞳を揺らすダルドは視線を下げながら彼の名を口にする。しかし、名を呼ぶことすらも躊躇っていたのか、その声はようやく聞き取れるかどうかほどの小さなものだった。
さらに傷つき泥にまみれたダルドの両足はキュリオと距離をとるように一、二歩後ずさり、立ち去ろうとしているのは明らかだった。
「さぁ、私たちも行こうか」
ダルドの考えが手に取るようにわかったキュリオは優しく言葉を発し、自身の肩にかけていた水を弾く美しいストールをダルドの体にかけた。
「……な、なんだ? ……なにが起きてんだっ!?」
近距離で放ったはずの矢が突然失速し、まるで何かに弾かれたようにその身をしならせ、苦しげな呻き声とともにバラバラに砕けて落ちた。
「――愚かなる猟師(キニゴス)よ。人の身であるお前たちの力では私を傷つけることは不可能だ」
背後で震えていたダルドが覇気のある声にハッと顔を上げると、キュリオの体を包む淡い光がわずかに輝きを増しており、それが彼の怒りと比例しているのだと気づくまでそう時間はかからなかった。
「……っ、間違いないっ! このお方はっ……キュ、キュリオ王だっっ!!」
ひとりの男が偉大な王に許しを請うようにガバッと泥水を啜るほどに頭を擦りつけて土下座する。
すると背後のダルドは大きく目を見開き、威厳を兼ね備えたキュリオの横顔を見つめた。
「……キュリオ……君は王様、なの……?」
「……」
その問いに応えはなかった。ダルドはまさかの人物の登場に息が止まりそうになりながらも、銀髪の青年へと懸命に意識を集中させる。
(……これ、僕知ってる……)
彼を取り巻くオーラも優しさもダルドには心当たりがあった。
そして点と点が繋がった瞬間、足元から駆けあがった震えが頭上を抜けるまで一瞬の出来事だった。
「……っ!」
なぜならば、常にこの悠久を満たしている力がキュリオの気配そのものだったからだ。
土下座した男を冷たく見据えるキュリオはさらに背後にいる男たちへと視線を投げつける。
「ヒィッッ!!」
体が竦み上がるほどの眼光で睨まれ、腰を抜かした男らが尻もちをついて白目をむいていると、複数の馬の蹄の音があたりに響いた。
「キュリオ様! ご無事ですかっ!!」
辺りを取り囲む光の量が増え登場したのは、魔導師の生成した光球を引っ提げた屈強の剣士たちだ。
「罪人を捉えろ」
「ハッ!!」
偉大な王がそう述べると、大柄な剣士らは魔法により特殊な技法で編み出された強力な縄で彼らを縛り上げていく。
その光景を不快極まりないといった眼差しで見つめていたキュリオのもとへ、ベテランの粋に達したであろう剣士のひとりがバタバタと近づいてきた。
「お怪我はありませんかっ!?」
「あぁ、ご苦労。私たちは大丈夫だ」
「ハッ! あとは私どもにお任せくださっ……」
と、頭を下げようとした剣士はキュリオの足元に散らばった無残な矢を目にし、忌々しそうに顔を歪める。
「……王へ刃を向けるなど何たる重罪っ……!!」
その矢を証拠の品として袋に収めた彼はキュリオに向かって深々と一礼すると、縛り上げられた彼らを強く睨みつけ勢いよく身を翻し再びバタバタと走り去っていく。
「……キュリオ……ぼ、ぼく……」
戸惑い、瞳を揺らすダルドは視線を下げながら彼の名を口にする。しかし、名を呼ぶことすらも躊躇っていたのか、その声はようやく聞き取れるかどうかほどの小さなものだった。
さらに傷つき泥にまみれたダルドの両足はキュリオと距離をとるように一、二歩後ずさり、立ち去ろうとしているのは明らかだった。
「さぁ、私たちも行こうか」
ダルドの考えが手に取るようにわかったキュリオは優しく言葉を発し、自身の肩にかけていた水を弾く美しいストールをダルドの体にかけた。