【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「……っああキュリオ様……っ!!
これでこの子が追い出されるようなことはないのですわよね!?」

「あぁ、君にも心配をかけてしまったね」

「いいえ、いいえ……っ!!」

震える声で言葉を返した女官。彼女はこぼれ落ちそうな涙を堪えながら愛しさを込めた瞳で赤子を見つめている。
 やがて彼女は眦まなじりをつり上げ、このようなことをさせた元凶へと杭を放つ。

「大臣っっ!!
二度とこの子を疑うようなこと言わないでくださいませ!! 次はわたくしが許しませんことよっ!!」

「……っも、申し訳ない……」

強く叱られた大臣は合わせる顔がないといったように俯き肩を落とし、弱々しく謝罪の言葉を呟いた。

「……だがあの国にも伝達は出す。有力な手がかりが得られるかもしれないからな」

 女官に呼ばれ、赤子の無事に歓喜する侍女らへ彼女を任せたキュリオ。彼はすぐに白机へ向かい、書きかけの手紙へペンを走らせる。
雑念がなくなったキュリオはあっという間に四通分を書き上げ、最後にサインを添えて封筒へおさめた。

(――問題は誰に頼むか、だな。
私が行ってもよいが……それでは大事おおごとになってしまうだろうか?)

目の前には各国の王の名を記した見目の良い四つの封筒が並べられているが、キュリオの脳裏を新たなる問題が過よぎり、封蝋シーリングワックスへ伸ばした手を止めた彼は考えるように腕を組んだ。

 国同士のいざこざや話し合いの必要があるような場面ならまだしも、身元調査で王が動くなど普通はありえないのだ。

「…………」

(……なにか良い案はないものか……)

すると、控えめなノックの後、執務室に聞き慣れた老人の声が届く。


――コンコン


『キュリオ様、ガーラントでございます』

「……入れ」

『失礼いたしますぞ』

この年老いた落ち着きのある声にキュリオの視線は扉へと移る。
 やがて開いた扉からは……ガーラントと名乗った人物と、彼の背後から現れた見慣れない少年の姿があった――。
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